らくとあいすの備忘録

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Bozeと始めるBGM制作

こんばんは。Boze Advent Calendar 2020 14日目の記事です。

今回は、三日坊主さんが制作したVRChatワールド「stair54」のために作ったBGMの話を中心に書きたいと思います。あとおまけの話をします。

stair54の楽曲はYouTubeでも公開しているのでよろしければ聴いてみて下さい。

経緯

ある日twitterのTLを眺めていたらこんなツイートが流れてきました。

買い取りプランなるものは以前も以後もおそらくやらないと思いますが、新規ワールドを見て、即興演奏、そしてワールドBGMにという企画はすごくやってみたい感じがあったので即断でOKしていました。*1 即興演奏なら、行って弾くだけなので時間的にもほとんどゼロコストですし、そこから音源化するとしてもコンセプトとして即興演奏を用いるというところを出発とするので比較的工程少なく出来るだろうという算段もありました。

そして数日して、ワールドをめぐっていたら当時無題だった、「階段のワールドが出来た」ということで遊びに行きつつ即興演奏してみることにしました。

即興

元々、私は曲を作る時に視覚的なイメージを頼りにすることが多い方でした。 小さいころは科学系の雑誌の挿絵を眺めて曲を作ったり、そこから少しだけ改変した世界を想像して絵に起こしてみて曲を作ったりしていました。 小さい紙にたくさん絵を描いていって、それを譜面台に並べてモチーフを考えたり、一日中そのことばかりを考えて世界観を広げていったりすることが作曲の工程のほとんどであったと言っても良いぐらいでした。 少し成長して知識がついてくると、どちらかというと曲の初動は何らかのイメージに頼りつつも概ね理詰めで曲を作ることも増えてきました。 色々なことを考えなければならなくなってくる日常の中で、曲を作れるほどにある世界観に没頭していくことが難しくなっていた側面もあったのかもしません。

さて、そんな折にVRChatです。 HMDを被りながらピアノを弾いていると、まさに小さいころにしていたように、作りたい曲の世界そのものに入りながら曲を作ることが出来ます。 VRはシングルタスクで他のことが出来ない...みたいなことが良く言われますが、まさにそれが好都合で世界の中に存分に浸りながら曲を作れる環境を手にできたわけです。しかもVRChatでは、自分の描いた世界だけではなく、人の描く世界にまで入りこむことが出来ます。Boze Advent Calendar 10日目の記事で書かれている環世界の話にも通じるかもしれませんが、他人の作った世界と自分の視えている世界のInteractionの中で曲を創り出す行為は、自分の描いた世界のみからでは生まれない何かを生みうるものだと思います。

今回の階段のワールドの中での即興演奏は、HMDを被りながら周囲を眺めて頭に浮かんでくる抽象的なイメージをなんとなく音にしていくところからはじめました。 はじめは、あまり作為を持って曲にしようとせず、音の響きが世界の視え方に与える影響を観察していきます。 いくつか音を弾いていくと、視覚的には全く同じ世界であってもほんの少しの音使いの違いでその見え方は、少なくとも主観的には、大きく変化していくことが分かりました。 そのような、音が視覚的印象に与える影響の変化を楽しみながら、少しずつ音を変えていき、最終的にははじめてワールドを視た時の印象に音を溶かすように寄せていきます。 音を溶かすべきか、それとも音によって新たな軸を生み出すべきかは場合によって違うかもしれません。 ただ、世界に存在しない仕組みで鳴る音=BGMである以上、はじめからその世界にあったかのように、溶け合うように存在して欲しい、(少なくともこのワールドではそうあって欲しい)という願いのもと今回はそういった方針を取りました。

そうして、5,6分音を動かした後の様子がこの動画です。

はじめの10秒あたりまでは、今のstair54とは全然違うことを弾いています。 とはいえ、コンセプトとしては通じるものがあって、階段の循環するような回るような感じを、繰り返す低音のラインで表現しようとしています。 ただ、やっぱりまだ"溶けて"いません。 そして、そのあとちょっとずつ循環フレーズの質を変えていって、だんだん視覚的イメージとの齟齬を消していって、"ハマった"という感じを得たのが0:27あたりです。 その後は、自然に曲が続いていってほとんど今のstair54が出来上がってきています。 最終的には、トータル9分ほどの即興演奏を経てstair54の原型が出来ました。

調整

ワールド内で演奏している時は、演奏会として淀みなく聴かせたり、音源としてミスなく弾くといったことを優先していなかったので、撮ってもらっていた動画を元に落ち着いて再構成していくことにしました。 とはいえ、雰囲気はほとんど出来上がっているので、そこの根幹を変えないように即興では弾ききれていない部分の精度を少し高めていくぐらいの作業です。

この工程での一番大きな変更は、拍子を6/8から9/8に変更したことでしょうか。 元の曲は、かなり高音の旋律に長い音符を使っているのですが、それがやや長すぎてピアノの音色で演奏する上ではもう少し音と音をちゃんと繋いであげたい気持ちになったので、6/8の2小節分を9/8に圧縮しました。 圧縮する拍子として9/8を採用したのは、ほとんどフィーリングですが...基本となっている循環する低音フレーズを弾いていたら、ある時勝手に5+4のフレーズにすり替わっていてそれが"良かった"のと、9/8を3つずつの音符で割ると3拍子的に捉えることが出来てもとの拍子とも親和性が高そうだった等々の理由です。そして、この低音フレーズの5+4のリズムは、そのままタイトルの数字"54"に繋がっています。*2

おわりに

今回は、「Bozeと始めるBGM制作」ということで、ワールドとの相互作用の中で即興的にワールドBGMを作っていくという話を書かせて頂きました。 ワールドのための曲というもの、まだまだ少ないように思っています。 一つには、ワールド制作者が曲を作る人と一致しているケースが少ないという理由になると思いますが、曲を作る人もワールドを作る人もこの界隈にはたくさんいるはずなので、色々な相互作用が生まれていったら面白いだろうなと思っています。

おまけ

これですが...

ある日、三日坊主さんと話しながらぼーっと視界の端に三日坊主さんをとらえていると、情報に気づいてしまいました。 三日坊主さんと会ってから、約2年一切気づかなかったことです...

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もうお分かりでしょうか...。袈裟の模様が、なんと漢数字の「三」だったのです。 今年1,2を争う衝撃でした。10分ぐらい、そのことしか口から出ないぐらいの衝撃がありました。 しかも、まさかと思って、そのことを踏まえて三日坊主さんの後ろに回りこむと

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はい、サイコロの4です。*3 3日目と4日目の間をループする坊主であるところの三日坊主さんの来歴を端的に表す、めちゃくちゃ意味のある袈裟の模様だったわけです。 ちなみにこの話は伏線です。お楽しみに。

*1:こうやって首が回らなくなっていきます。

*2:曲のタイトルは、あんまり深く考えない方です。階段なのでstairで良かったのですが、識別番号が欲しかったので丁度良い数字を探した感じです。

*3:ちなみに尖っている左上の丸はリップシンクして尖ります。